言いたかったことはなんだっけ。
深夜2時。僕と暗い部屋。外から聞こえてくるハメを外しているであろう若者の笑い声。僕の目には、隣に立つスーパーから漏れる灯りに照らされた自室のウィスキーのボトルが、むなしく光る。最後にキャップを緩めたのはいつのことだっけ。
春が巡ってきた。
真夜中に散歩をするのが好きな僕は、ここ数日その大好きな趣味が遂行できずにいる。
すっかりあたたかくなったというのにね。
なぜだろう?自らに問いかけることは容易い。
しかし腑に落ちる答えが浮かんだことはない。
だから僕は歩くことがない。
日々を生き抜くことで精一杯で、笑顔もガタガタと固まっていくし、仮に僕が笑うとすれば、どことなく金属音が脳内で補完される。まるで作り物になっていくようだ。
言いたかったことはなんだっけ。
あぁ、ニトリで買ったふかふかでお気に入りのバスタオルがみるみる消耗していく。
言いたかったことはなんだっけ。
ゴミ出しに行かなくっちゃ。
言いたかったことはなんだっけ。
僕はこんな生活望んじゃいない。
季節は確実に穏やかさを取り戻しているのに、僕だけが未だ置いて行かれてるようで。
トクトク、とウィスキーのボトルからウィスキーが流れ出し、IKEAのカラフルなプラスチックカップに注がれていく。
そして、一気に飲み干す。
先ほどまで外からの灯りに照らされていたから、その灯りまでも飲み干せはしないだろうか、とそっと思ってみたりして。
もしかしたら僕は、周りに何かを託しすぎているのかもしれない。
すっかり疲れ切ってしまったことに、ようやく気がついた。
また、宛てもなく近所を散歩してみようかな。
そういえば僕はこの街が大好きなんだった。
言いたかったことは、なんだっけ。