下書きに入っていた文章。
4月に書いていたらしき文章、です。
起き抜けに浴びるシャワーが好き。
バスタオルで身体を拭いた時の摩擦が心地よいから。
野菜を多めに摂取するのが好き。
漠然といいことをしている気になるから。
どうしたのだろう。
ポエムでも書こうとしていたのだろうか。笑
僕はいつも書き進めながらまとまっていくタイプなので、これはきっとほんとに練る前の段階なんだと思います。
文章を仕上げるまでに段階を分けるとしたら、上記の文章は第1段階。
ほんとになんのこっちゃ?っていう駄文の状態ですね。笑
でもこうやって書いては消して、を繰り返すわけで。
消してしまう文章は階段となり、バネとなって、出来上がった文章が高い丘にいるとしたら、ふもとの方にいるのがこいつなのです。
文章を書くのを一度省みるいい機会になりました。
やっぱり文章を書くことはとても大好きです。
綿 (仮) -第2話-
- 第2話 -
映画館を後にして、ハナちゃんは来た道を戻っているようだった。
「あの…これ、ありがとう。なんだかごめんね?」
ようやくハンカチを貸してくれたことのお礼が言えた僕。
「ふふ、一体何に対してごめんなのか分かんないなぁ〜?とりあえずそれ持ってて?」
行き場を失ったハナちゃんのハンカチをそっとポケットにしまう。
その時カサカサっと指先が何かに当たる、と同時にシュンの顔が浮かぶ。
同じポケットに入っていた"先客"を指先で触れて僕の指は行き場もなくとても気まずそうにどぎまぎしていると、
「よーしっ、ヒカルくん、2人で2次会しちゃおっ!」
そう言って僕には有無を言わさないスピードでカラオケに入っていく。
2人でギリギリといえるほどの狭い部屋に通された僕ら。
"ちょうど良い広さ"を目の当たりにして、妙に生々しさを感じていた。
そうか、僕ら2人きりなんだ…って。
女の子と2人きりになったら何したらいいんだっけ…?
頭ばかりがフル回転する。
ニコニコで曲を選んでいるハナちゃんがずいぶん大人に見えた。
僕らは同い年だし、お互いいい大人だけど、こんなにも差があるものか…
「ヒカルくん、さっきみんなといる時、自己紹介でバンドして歌ってる、って言ってたよね?歌ってほしいなー!」
あぁ〜…そんなこと言ったなぁー…前にシュンから、アピールポイントになるから隠さず言えって謎に指導されたから言ってるだけなんだけど…
「あたしの好きな曲…これ知ってる?」
僕が歌えるのかどうかはさて置いているのか、もうイントロが流れ始めている。
あぁ…この曲か…
「うん、この曲すごい好きだよ。」
歌ってみせた。
くるりの"東京"という曲。
田舎から上京してきた僕には思い入れの強い曲だった。
時々ハナちゃんの様子が気になって横目で見てみるんだけど、ただ静かに隣で聴いてくれているみたいだ。
終盤の合唱するパートを、ハナちゃんは身体を左右にゆったり揺らしながら一緒になって歌ってくれた。
パーパーパーパラッパー
パーパーパーパラッパー…
とても一曲目に歌う曲ではないんだけど、ハナちゃんはご満悦だったようだ。
「ヒカルくん上手だねー!聴き入っちゃった、もっと歌お!」
そう言ってこの後も、この曲知ってる?と聞かれて歌う、を繰り返した。
僕が知らない曲はハナちゃんが歌ってみたりして。
透き通って綺麗な歌声なんだこれが。
残り30分くらいになった頃、ハナちゃんがソファーの背もたれに寄りかかって、僕に言った。
「はぁーーっ、合コンって何だか気の合わない人ばっかりだったんだけど、初めてすごく楽しい日だったー!」
そう言って、僕の目の前にぐいっと近づいてきた。
急接近だ。
僕も同じ気持ちだよ。
おもむろにポケットからハナちゃんのハンカチを取り出して、きゅっと握ってみた。
それをハナちゃんがどう見てどう感じたかは分からないけど、もう息遣いも伝わってくるほど近くにハナちゃんがやって来ている。
そっと、ハナちゃんの頬にキスをしてみた。
僕にとっては一世一代の覚悟というやつだ。
僕とハナちゃんの間の空間だけが、まるで時が止まってしまったようだった。
嫌われてないかな…よぎるのは不安ばかり。
そして隣のブースからは調子外れな歌声。
今、もう一度なけなしの勇気を出すことができれば、ハナちゃんの唇にキスすることだってできる。
でも、僕はこの人を大切にしたいと思ってしまった。
あと少しの強引さを引き出すことができそうになかった。
…その時、沈黙は破れる。
「ヒカルくんでよかった。」
唇にふかふかした感触が触れた。
そして強く重なった。
またひとつ、彼女に関して知らないことを知ることができた。
でも、僕はハナちゃんにばかり行動させている、と強く反省した。
言わなくちゃ、はっきりと。
こういう時に過去の失敗が浮かんでくるあたり、僕の性格は面倒だなぁ、と思う。
…そうだ、思っていることを伝えることが大事なんだと学んできたじゃないか。
でも、無情にも退店時間を知らせるインターホンが鳴り、僕らは会計をし、駅前で別れてしまった。
この時の情景はスライドショーのようにしか思い出せない。
それだけ頭をぐるぐる巡る想いがあった。
ハナちゃんはどういう想いだったのだろう。
僕が別れ際、勇気を出してようやく言えた言葉は、
「僕も、ハナちゃんで良かったと思ってるよ。」
それだけだった。
抽象的にしか表現できなかった。
ハナちゃんはくしゃっと笑って、改札を抜けて雑踏の中へと消えていった。
- 第2話 終 -
綿 (仮) -第1話-
【綿】(仮)
- 第1話 -
いま、僕ときみはカラオケボックスの狭い一室に2人きり。
ムードのかけらもない空間で、僕はきみの頬にキスをする。
きみの唇に "それ" ができない僕は実に意気地なしだ。
調子外れな歌声がとなりのブースから聞こえてくるなか、きみは僕に呟く。
「 」
僕は頭の中が真っ白になった。
気づいた頃にはきみは僕の唇に強く自らの唇を重ねていた。
ぼくのいままでのれんあいはなんだったのだろう。
1秒で塗り替えられてしまったのだ。
名前しか知らないきみによって。
僕の名前は光。
ヒカルという名前は昔こそお気に入りの名前だった。
その名前のおかげで幼い頃はチヤホヤされていたような気がするし、見るもの全てがキラキラしていたあの頃にピッタリだったように思う。
今となっては目立った取り柄もなく、バイトで食いつなぐ日々。
一体いつからこうなってしまったのだろう。
「おいヒカル、聞いてんのかー?行ってくれるよな?合コン」
僕にガサツに声を掛けてきているヤツの名前はシュン。
僕が田舎から上京してはじめて出来た悪友だ。
月に一度こうして合コンの誘いをしてきては自分が一番人気で場をかっさらうという、いわゆるモテ男だ。
でもそんなヤツだけど、恋人がなかなかできない僕を見かねていろんなところに連れ出してくれる心優しいヤツだったりする。
「まったく、、しゃーなしだからねー?いつも帰り道むなしくなるから気が進まないんだよなー…」
「それはお前が選り好みするからだろー?ちゃっかりやらせてもらっておけ、っていつも言ってるじゃんか…」
最低だ…と、フツーだったら大ブーイングを受けそうなところだが、持ち前の面倒見の良さとマメさで挽回しちゃうんだ。ズルい。そして何よりも彼はルックスが良い。
ディーン・フジオカにどことなく似ているんだ…もちろん女には困っていない。
…なんだかこいつのことを改めて振り返ると自分の自信がみるみる失せてきたよ。
また週末は合コンでつぶれるのかー。
観たい映画があるから休日のレイトショー、楽しみにしてたのになー…
約束の日。僕らは先にお店に到着していた。
「お前あからさまに嫌々ついてきました〜って顔してんなよー、そんなんじゃモテねぇぞ?」
「うるせっ、現にモテてねーよ。もしかしてわざと言ってない?はぁ…早く帰りたいな〜」
「とにかく、気に入った子がいたらすぐ言うんだぞ?アシストしてやっから!」
はーーーーーい。
間延びした返事をしたとほぼ同時に、3人組の女性グループがこちらめがけて歩いて来るのが見えた。
「ごめんなさーい。お待たせしましたー!」
女性側の仕切り役らしき子がぶりっ子全開の声色で挨拶してきた。
「おおー、待ってたよー!さあさあ、座って!」
シュンと知り合いっぽかったその子は、シュンとひと通り会話を交わすと、女性側の自己紹介をしてくれた。
教師、アパレル、カフェ店員…
僕らと同じ25歳。ちょっとこちらが怯んでしまうほどの美人揃いだ。
すかさずシュンはテーブルの下で僕ともう一人の連れにスマホの画面を見せる。
『おれルミちゃんな』
ルミちゃん、とは高校の古文の教師をしているという女の子だった。
仕切り役の子だ。
綺麗な黒髪ロングの、いわゆる高嶺の花といわれる分類の女性そのものだった。
連れはカフェ店員のノゾミに夢中なようだった。こいつはいつも分かりやすい。
僕はというと、別にこの場が終わってくれればいいや…と思っていたので時間つぶしも兼ねて食事に専念することにした。すると
「あの…取り分けましょうか?」
そう言ってトング片手に僕の顔を覗き込んでくる人がいた。
正直とてもどきどきした。
上目遣いに男は弱い、って学校で習いませんでしたか?こうかはばつぐんだ!なんて。
「えっ、あ…ありがとうございます」
僕が持っていた取り皿をそっと受け取ると、目の前にあったシーザーサラダをよそってくれた。
「あたし、こういうの苦手で…ヒカルくんは良く来るの?」
「いや、僕はいつも人数合わせで…シュンが呼び出してくれるんですけど…」
そう言ってシュンのいる方に視線をやると、もう既に教師のルミちゃんといい感じになっていた。
「ルミね、旦那さんいるんです…もしかしてだけど、会う口実に2人ともこの場を設けたんじゃないかなーって…」
「えっ?そんなことわざわざする必要あるんですか…?あ、でも危ない橋を渡りたがるところあるからなーあいつ…」
余談ですが後日シュンに尋ねたところ、自分の好きな女が他の男に言い寄られているのを見て優越感に似た感覚を得ているそうな…世の中にはいろんな嗜好の人がいるんですね…まあ彼らにフォーカスを当てるのはまた後日ということにして。
僕とその女性は2人でボーッと俯瞰で残りの4人を眺めていた。
彼らと僕らは同じ合コンの場に居るはずなのに、別世界のようだった。
なんだか薄い壁のようなもので仕切られているかのような。
とにかく空気感が異なっていたのだ。
きっと、"ハナ"と名乗っていたこの女性も同じようなことを思っていたんじゃないだろうか。
合コンが始まってから、2時間が経過しようとしていた。
僕ら以外の4人はすっかりいい感じになっていたし、僕らは僕らでお互いの話をしたりして、それなりに盛り上がっていた。
あっという間だった。
今までの合コンではまず感じることのなかった感想だ。
『おいヒカル、なんだか帰りたくなさそうな顔してんなっ』
シュンが小声で意地悪くニヤニヤしながら囁いてくる。
シュンの腕には瞳を潤ませたルミちゃんがピッタリくっついている。
さらにシュンは僕にそっと小さな袋を渡してきた。
『マナー、だからなっ』
意地の悪いニヤニヤはそのままだ。
僕は心底この悪友を軽蔑した。
僕はおまえと違ってそんなに手は早くありません。
「んー?どうしたのー?」
ハナちゃんが無邪気な笑顔で近づいてきた。
バレたらやばい、と必死にポケットに隠しながら話題を逸らす。
「き、今日はありがとう!ほんと楽しかった〜」
「あれーっ?もしかしてヒカルくん帰ろうとしてないー?」
おもむろに手を握られてびくっ!と驚いてしまう僕。カッコ悪い…
シュンに助けを求めようと辺りを見渡すと、4人はずっと先の方を歩いていた。
「もうー、置いてかれちゃうよー?みんなカラオケで2次会するんだってー」
ハナちゃんは最初に比べてだいぶ砕けた接し方をしてくれるようになっていた。
「あのね、ヒカルくん?さっき話してた映画、あたしも観たかったやつなの、レイトショー、まだ間に合うよね?」
あ…もし合コンがなかったらなにをして過ごしてたか、というテーマで話してる時にレイトショーの話したんだった…しかもお互いこの話題で一番盛り上がっていた。よっぽど合コンアレルギーなんだな、僕ら。
「ギリギリ間に合うかな…?カラオケ行かないの?」
「大丈夫!きっと後からまたみんなと合流できるよー!ほら、行こっ?」
さっきからずっと握られていた手を引っ張り、ハナちゃんは映画館の方向へ走り出す。
バランスを崩しながら、僕も引っ張られるまま後を走る。
肩甲骨の下くらいまではありそうな長い髪の毛が時折僕の鼻の頭に擦れて、なんだかくすぐったかった。
また、ハナちゃんの方向からやってくる甘い香りにどきっとさせられていたのでこれ以上はあまり走っている時のことは覚えていない。
気づいたら映画館のあるビルに入っていた。
エレベーター後方にある鏡で乱れた髪の毛を直すハナちゃん。
改めて見ると本当に綺麗な人だ。
切りっぱなしの短い前髪、走ったせいで赤くなっている頬、水色のワンピース。
鏡を通して目が合うとニコッと笑いかけてくる。
天真爛漫、とはこういう事を言うのか、と思った時には胸の鼓動が収まらなかった。
走ったからだろう、だなんて野暮なツッコミは全面却下だ。
「ほらっ、まだ油断できないぞー?」
そう言って再び僕の手を掴むと、小走りでチケット購入などを済ませ、なんとか滑り込みで間に合った。
大きく肩で呼吸する僕らは、日曜日のレイトショーをほぼ貸し切り状態で観ることができた。
普段そんなに観ることのない恋愛映画。
好きな監督さんの作品だということで気になっていたけど、まさか数時間前に知り合ったばかりの女の子と観ることになるとは。
まるで僕も今、映画の中にいるみたいです、監督っ!
ハナちゃんはちゃっかり買ったポップコーンを頬張りながら泣いている。
欲張りな人なんだなぁ…と、なぜかとても心惹かれた。
ひときわ切ないシーンになると、僕の手をぎゅっと強く握ってきた。
僕、もうこの人に何回手を握られているのだろう。
僕の脳内のカウント機能はショートした。
緊張がひどく押し寄せる中、僕はスクリーンの方しか向くことができなかった。
あっという間にエンドロールが流れている。
ハナちゃんが心配そうに顔を覗き込んでいる。
どうやら僕の顔は涙でぐちゃぐちゃらしい。
そっとハンカチを差し出しながら優しく背中をさすってくれている。
感謝の気持ちとか言いたいんだけどなんだか胸がいっぱいでなにも言い出せずにいると、
「とても良い映画だったねー…この後どうしよっか?まだカラオケにいるかルミに連絡とってみよっかー?」
さすがにこんなに泣き腫らした顔でみんなに会えない…少し俯いていると、
「あらー…今連絡してみたんだけど、もうみんな解散しちゃったみたい。うーん…よしっ!行こっ!」
また手を掴まれてスタスタと先を歩くハナちゃん。
うん、もう明日のことはどうでもいいや。
- 第1話 終 -
言いたかったことはなんだっけ。
深夜2時。僕と暗い部屋。外から聞こえてくるハメを外しているであろう若者の笑い声。僕の目には、隣に立つスーパーから漏れる灯りに照らされた自室のウィスキーのボトルが、むなしく光る。最後にキャップを緩めたのはいつのことだっけ。
春が巡ってきた。
真夜中に散歩をするのが好きな僕は、ここ数日その大好きな趣味が遂行できずにいる。
すっかりあたたかくなったというのにね。
なぜだろう?自らに問いかけることは容易い。
しかし腑に落ちる答えが浮かんだことはない。
だから僕は歩くことがない。
日々を生き抜くことで精一杯で、笑顔もガタガタと固まっていくし、仮に僕が笑うとすれば、どことなく金属音が脳内で補完される。まるで作り物になっていくようだ。
言いたかったことはなんだっけ。
あぁ、ニトリで買ったふかふかでお気に入りのバスタオルがみるみる消耗していく。
言いたかったことはなんだっけ。
ゴミ出しに行かなくっちゃ。
言いたかったことはなんだっけ。
僕はこんな生活望んじゃいない。
季節は確実に穏やかさを取り戻しているのに、僕だけが未だ置いて行かれてるようで。
トクトク、とウィスキーのボトルからウィスキーが流れ出し、IKEAのカラフルなプラスチックカップに注がれていく。
そして、一気に飲み干す。
先ほどまで外からの灯りに照らされていたから、その灯りまでも飲み干せはしないだろうか、とそっと思ってみたりして。
もしかしたら僕は、周りに何かを託しすぎているのかもしれない。
すっかり疲れ切ってしまったことに、ようやく気がついた。
また、宛てもなく近所を散歩してみようかな。
そういえば僕はこの街が大好きなんだった。
言いたかったことは、なんだっけ。